2024/1/22
精液を増やす方法を知っていますか?精液について徹底解説
1.はじめに
近年の晩婚化等の影響から妊活を意識する夫婦が増加し、女性だけでなく男性の取組み も増えています。男性の妊活について多くのコラムでは「精液の増加」を解説していま す。しかし精液は射精時に出る液体で精奬(せいしょう)という液体と精子で構成され ており、生殖細胞である精子は精液の1%に過ぎません。したがって妊活では精液では なく精子が最も重要になります。本コラムでは従来からの精液増加の解説に留まらず、 精子の質にも着目し、「精子の質の劣化を回避した正常な精子数の増やし方」について も解説します。
2.妊活の現状
【晩婚・初産高齢化】
厚生労働省の調べ(※1)では、1995年と2021年の平均初婚年齢を比較すると男性は28.5歳→31.0歳、女性は26.3歳→29.5歳と男女共に晩婚化が進んでいます。また、女性は20歳後半から妊娠しずらくなる傾向がありますが、第1子出産時の母親年齢は1995年27.5歳→2019年30.9歳と出産の高齢化が進んでいます。そのため不妊を心配したことのある夫婦は3組に1組を超え、不妊の検査や治療経験のある夫婦の割合は増加傾向にあるとされています。(※2)
(※1)→厚生労働省資料③【公表後配布用】本体のみ (mhlw.go.jp)
(※2)→第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)
【男性原因の不妊】
2017年のWHO(世界保健機構)の不妊原因調査では、男性原因のみ24%、男女原因24%、女性原因のみ41%、原因不明11%で、男性が関係する原因が24%+24%=48%と約半分を占め、不妊は女性だけでなく男性も大きく関わることが分かりました。
3.精子状況の悪化
近年、男性不妊治療が注目されるようになり、精液、特に精子状況の悪化が報告されるようになりました。精子状況の悪化では、「精子数の減少」と「精子の質の劣化(精子の老化とDNA損傷)」が注目されています。
【精子数の減少】
2006年の日欧の国際共同研究の報告によると、日本人の精子数を100とすると、フィンランドが147、スコットランド128、フランス110、デンマーク104で、日本が最低でした。(※3)さらに、2017年に、欧米人男性の精液を1973年から2011年まで約40年間調査した結果、精子濃度が約▲5割、総精子数が約▲6割減少したとの報告もありました。(※4)
(※3)日欧の国際共同研究が英専門誌と日本医師会誌5月号に発表されたと2006年5月31日に読売新聞が報道
(※4)→精子数の経時的傾向:システマティックレビューとメタ回帰分析
【精子の質の劣化】
〔マスコミ報道〕 2018年2月6日のNHK「クローズアップ現代+」の放送(※5)では、男性不妊の原因として「精子の減少」だけでなく、精子の質の劣化として「精子の老化とDNA損傷」が新しい男性不妊治療の視点として取り上げられ大きく注目されました。
(※5)→精子が寿命を迎える年齢とは ~精子“老化”の新事実~
〔正常な精子数の減少〕
WHOの2017年当時の基準によると、自然妊娠するには精液1ml中に精子が1,500万以上、そのうち活発な精子が40%以上いるのが望ましいとされていました。しかし、精子数は1,500万以上で十分ですが、活発な精子が40%未満で正常な精子数が減少している等WHOの精子基準を下回る男性が6人中1名いると、日本生殖医学会の学術講演報告(2017年)がありました。
〔精子の老化とDNA損傷〕
見た目が元気な精子でも中身が老化している場合があり、35歳を過ぎると細胞分裂を促す精子の力が衰える男性が存在するとの獨協医科大学埼玉医療センター報告がありました。また、精子は約74日かけて毎日5,000万~1億個ほど作られていますので老
化と無関係と思われがちですが違います。精液を濃くするための禁欲等から射精をしないと古い精子が溜まり新しくできた精子を溜めるスペースに余裕がなくなります。
そして古い精子から活性酸素が出てきて精子と精子を作り出す形成細胞自体にも染色体・DNA損傷などのダメージを与えてしまいます。ダメージを受けた精子は受精しにくくなり、受精しても育ちません。
4.精子の質と量を改善する不妊治療
【男性不妊原因】
2016年厚生労働省調査報告(※6)では、男性不妊原因は造精機能障害(正常な精子を造る機能の障害)82.4%、性機能障害(ED、射精障害)13.5%、精路通過障害(精子の通過通路の障害)3.9%、他0.2%で、原因のほとんどは造精機能障害でした。造精機能障害は原因不明42.1%、精索静脈瘤30.2%、染色体・遺伝子異常10.1%で精索静脈瘤が最も多い原因でした。精索静脈瘤は代表的な男性不妊要因とされ、精巣の上にある精巣静脈で逆流が生じてしまい陰嚢付近にできる静脈瘤が原因で精巣周囲の温度が高くなり結果的に造精機能障害を発症した症状です。一般男性の15%ほど、男性不妊と診断された方では40%ほどにみられます。造精機能障害、性機能障害、精路通過障害は受精における「正常な精子の量と質」に関係します。
(※6) →我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査研究:平成27年度総括・分担研究報告書ダイジェスト版 (jsrm.or.jp)
【正常な精子基準】
〔2021年WHO基準と疾病〕
・精液量: 1.4ml以上 →1ml未満は逆行性射精(精液の膀胱への逆流)
・正常形態率:4%以上 →未満は奇形精子症
・精子濃度:1,600万/ml以上 →未満は乏精子症
・精子運動率:前進している精子が42%以上 →未満は精子無力症
・白血球率:100万ml未満 →以上は膿精液症
〔その他〕
・精液中に精子がない →無精子症
・精液射精なし →無精液症
【総運動精子数による不妊治療方針】
総運動精子数とは動いている精子の総数で、精液量×濃度×運動率で計算します。不妊治療の判断基準になります。
〔判断基準と方針〕
妊娠できる可能性を総運動精子数で判断する目安と治療方針は以下のとおりです。
・2,000万以上:タイミング法(排卵日予測に基づく性行為)での自然妊娠
・1,000万~2,000万:人工授精
・500万~1,000万:体外受精
・500万以下:顕微受精
【総運動精子数による治療】
〔総運動精子数1,000万以上の場合〕
〈生活習慣の改善〉
過剰な活性酸素による酸化ストレス状態になると、精子は酸化ストレスに弱いことから、精子を造る機能や運動能力にダメージを受けるとされています。喫煙、アルコール過剰摂取、睡眠不足、運動不足、長時間の筋トレ・自転車乗車などの男性不妊の原因となる懸念のある生活習慣は改善しましょう。また、長時間の膝上のパソコン作業、きつ目の下着着用、サウナ等の高温環境は造精機能に悪影響を及ぼす懸念があるため避けましょう。また、バランスとれた食事により不妊原因である肥満の防止も重要です。
〈サプリメント服用〉
・コエンザイムQ10、アスタキサンチン、トコフェロール(ビタミンE)
精子はミトコンドリアを持っており、ミトコンドリアから得られるエネルギーで精子の尻尾を動かし前に進んでいます。この運動により活性酸素は発生すると酸化ストレスが増加し精子の運動率が低下します。そこで抗酸化酵素であるコエンザイムQ10、アスタキサンチン、トコフェロール(ビタミンE)を摂取することで酸化ストレスの軽減が可能になります。
・アルギニン、シトルリン
一酸化窒素に変わり、血管を拡張させ精巣への血流促進が期待できます。
・亜鉛、葉酸、ビタミンB12
体内で不足すると生殖器の機能と精子の運動率が低下する懸念があります。
・L-カルニチン
エネルギーの原料である脂肪と結合し、ミトコンドリアに脂肪をスムーズに運び込むことで、ミトコンドリアが活発に働くことが期待できます。
・ビタミンC
活性酸素を吸収し、精子形成や精子運動を活発にする効果が期待できます。
・DHEA
男性ホルモン(テストステロン)や女性ホルモン(エストラジオール)の材料となるホルモンで「若返りホルモン」とも言われる。テストステロンが低値の場合に服用により精子を産成する機能を高める効果を期待できます。
〈上記の治療とタイミング法で妊娠できない場合〉
人工授精、体外受精、顕微授精を行います。
〔総運動精子数1,000万未満の場合〕
上記〈生活習慣の改善〉〈サプリメント服用〉を併用し、顕微授精を行います。
【無精子症の治療】
精子の通り道に閉塞がある場合にその部分を取り除いて精路を再建します。精路通過障害を解除できれば自然妊娠が期待できます。
【精索静脈瘤の治療】
コエンザイムQ10、亜鉛、L-カルニチン等を服用しての手術が必要になります。
【逆行性射精の治療】
薬物治療、膀胱から精子を採取しての人工授精、体外受精、顕微授精が行われます。
【ED治療】
男性が不妊治療に強いストレスを感じていると心因性の勃起障害、射精障害を発症する場合があります。そうした心因性の場合には、バイアグラ・レビトラ・シアリス等のED治療薬による勃起促進効果で勃起→射精が徐々に改善することが期待できます。精 子の質・量の改善を行いながら、性行為前にED治療薬を服用し、勃起→射精がスムーズに行えることで自信を深めることをお勧めします。
5.最後に
当院は男性専門のED・早漏・AGAクリニックですので、不妊治療は行っておりません。不妊治療は産婦人科、泌尿器科、不妊治療専門病院の受診をお勧めいたします。なお、当院ではED薬、亜鉛・ビタミン・DHEA等の取扱いはございます。本コラムが妊活の一助となれば幸いです。
監修者
院長 髙嶋 政浩
平成元年 | 杏林大学医学部医学科卒業 |
---|---|
平成元年 | 杏林大学医学部附属病院 |
平成8年 | 西部総合病院皮膚科・形成外科部長 就任 |
平成12年 | 大手美容外科クリニック |
令和3年 | ユニティクリニック |