2023/12/08
女性はバイアグラを飲めるの?「女性版ED治療」を徹底解説
【「女性版ED」(FSD)について】
EDはErectile Dysfunction(勃起不全)の略ですので、女性にはEDはありません。しかし、EDを広い意味で性機能障害とすると、EDは「男性版」性機能障害ですが、「女性版ED」と言える女性性機能障害FSD(Female Sexual Dysfnction)があります。パートナーとの性生活において不満足を感じる場合に、男性側だけのED治療では根本解決にならない場合もあります。性生活の不満足の原因が男性側だけではなく女性側にもある場合もあるからです。男性のEDは広く知られていますが、女性性機能障害FSDはあまり知られていませんので、妊活を含めて幸福な性生活を送るために、主導権を持つことの多い男性にとっても「女性性機能障害(FSD)の知識」は必要になります。豊かな性生活は相手を思いやる気持ちが大切です。パートナーである女性の性の悩みを共有することも愛を高める大切な優しさではないでしょうか。
【「女性版ED」(FSD)とバイアグラ】
男性のED治療薬としてはバイアグラ(成分名シルデンフィル)が知られていますので、パートナーの女性性機能不全の場合にも、男性が服用しているバイアグラ(成分シルデナフィル)を女性パートナーが服用すれば効果があると考える方もいらっしゃると思います。しかし、医薬品ですので次の注意が必要です。
〔注意点〕
・日本では女性服用の治験データが無いためバイアグラの女性服用は承認されていません。したがって女性が薬局・ドラッグストアで購入できません。
・バイアグラに限らず病院やクリニックなどの医療機関で処方される医薬品を他人に 譲渡することは薬機法(旧薬事法)違反になる恐れがあります。したがって女性が男性からバイアグラを譲り受け服用した場合に薬機法違反の可能性がありますので避けましょう。
・バイアグラには血管拡張作用による全身の血流促進作用はあるものの、男性ホルモ ン等にある性的興奮促進作用はありません。
・海外では女性用バイアグラがありますが、当該国での承認が必ずあるわけではあり ませんし、偽物・粗悪品リスクがあるため個人輸入は避けましょう。
・女性性機能障害(FSD)がご心配の場合には女性専門の医師(婦人科等)に相談し、医師の管理の下で治療、薬剤処方を受けましょう。→詳細は後述【FSDの薬物以外治療】【FSDの薬物治療】を参照。
【女性性機能障害(FSD)の分類と原因】
FSDは大きく分けて、性的関心/興奮障害、オルガズム障害、性器・骨盤痛/挿入障害の3種類に分けられます。
〔性的関心/興奮障害〕
性交意欲が低下し、性交で興奮できない状態です。
〈性的関心障害要因〉
・生活上のストレス(精神的苦悩、世帯収入減少等)
・ホルモン異常(テストステロン、エストロゲン等)
・薬の影響(抗うつ薬、経口避妊薬、がん化学療法等)
〈興奮障害要因〉
・虐待
・精神的ストレス
・性交渉の激減
・閉経、エストロゲン減少による膣の萎縮
〔オルガズム障害〕
性的刺激を受けて興奮するのにオルガズムを得られない状態です。
オルガズムとは、性器で感じる性的興奮が頂点に達した時に得る快感をいい、その際女性の場合は膣の下部1/3と子宮が0.8秒間隔で収縮します。
〈オルガズム障害要因〉
・女性生殖器の仕組みや正常な性的反応の知識不足・誤解非現実的な興奮期待、性交技術不足、パートナーとのコミュニケーション不足
・精神的ストレス
・薬の影響(抗うつ薬等)
〔性器・骨盤痛/挿入障害〕
性器・骨盤痛とは膣が濡れなかったり、弾力性が無かったりして挿入時に痛みを覚える状態です。挿入障害とは心理的な問題や性への嫌悪等により膣が痙攣し挿入を妨げる状態です。
〈性器・骨盤痛要因〉
・陰部前庭炎、子宮内膜症、尿道憩室、骨盤・膣の手術
・虐待の既往症、精神的ストレス
〈挿入障害要因〉
・心理的要因、性への嫌悪、挿入行為
【FSDの薬物以外治療】
〔性教育〕
性機能について正しい知識がない場合が多く見られます。性機能についての教育と性行為の方法(前議、体位等)を指導、実践することで劇的改善が見られることがあります。
〔持病の治療〕
排尿障害、婦人科的がん、脊髄損傷等の神経障害、糖尿病等の代謝疾患、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺ホルモン異常、鬱・不安等の精神障害の持病はFSDの要因となりますので、改善に向けた治療が先ず必要です。鬱については性機能に影響しない薬剤への変更も効果的です。
〔精神療法、カウンセリング〕
性交治療、カウンセリングによる治療を行います。性交治療とは女性・パートナーに特有の状況に合わせて行われます。性的嗜好・性表現・性反応への誤解、パートナーとのコミュニケーション改善、女性が性交に嫌悪感を感じる潜在的な精神的問題の発見が治療の中心となります。
〔骨盤底筋トレーニング〕
性器・骨盤痛/挿入障害の女性の場合、痛みの記憶から余計な力が入り、骨盤底筋を上手く使えないため膣が収縮しがちで弛緩・リラックスできない方がいます。そうした女性の場合、骨盤底筋トレーニングによる効果が期待できます。
〈骨盤底筋トレーニング〉
女性は産道を通して骨盤底筋が男性よりも弱い状態です。その弱さを補うことが骨盤を整えるうえでは必要になります。もちろん骨盤底筋も筋肉なので、加齢とともに弱くなっていきますし、姿勢などによる筋肉バランスの悪影響によって弱くなることもあります。重要となる「骨盤底筋」を鍛えるには3つの筋肉を「同時」に鍛えることが必要になります。その3つの筋肉とは、「腹筋」「内転筋」「殿筋」つまりお腹と内ももとお尻です。この3つを「同時」に鍛えることができるエクササイズであれば骨盤底筋が自動的に強化できます。
【FSDの薬物治療】
FSDの薬物治療で効果があるとされる治療は少なく、国内未承認薬が多いため効果的な薬で国内承認されているものは更に少なくなります。男性の海外ED薬と同様に、偽物・粗悪品が多く健康被害リスクのある海外薬の個人輸入は避け、医師の指導の下での処方・服用が推奨されます。
〔FSD診療手順と薬物療法の可否判断〕
・先ず問診が重要になります。FSDがパートナーとの関係性や性行為技術・知識に問題がある場合には、カウンセリングによるパートナーとの関係性改善、正しい性行為指導が有効であり、薬物療法はあまり意味がありません。
・FSDが心理的要因である場合はカウンセリング、行動療法、薬物療法を併用して進みます。性的関心/興奮障害、オルガズム障害等のFSDの場合に薬物療法が有効となります。そして先ずFSD発症の可能性のある薬物の服用をチェックし中止します。
(FSD発症の可能性のある薬)
・抗うつ薬(SSRI、SNRI)は性欲を低下させるセロトニンを増やす効果があります。
・低容量ピルは、肝臓で作られる性ホルモン結合タンパクを増やすため、性欲を増強するテストステロンの減少に繋がります。
更に、血液検査を行い、甲状腺刺激ホルモン、乳汁分泌ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体化ホルモン、エストラジオール、プロゲステロン、フリーテストステロン、DHE-Sの異常がないかをチェックしホルモン補充療法の参考とします。
〔テストステロン治療〕
「性的関心/興奮障害」の場合は、テストステロンパッチを使用することが効果的とされ ています。テストステロンが低下すると性欲が減退することが分かっています。ただし、体毛の増加、ニキビ等が副作用として考えられます。性欲減退気味の方、特に更年期以降で抑うつ気味の方、早期閉経、副腎疾患で性欲減退・抑うつ気味の方に有効とされています。なお、女性用テストステロンパッチは国内で認可されていませんので医師の判断で輸入・処方となります。国内で使用できるテストステロン製剤にはエストラジオールとテストステロン合剤の「ポセルモンデポー」(2~4週間ごとの筋肉注射)、OTCの男性ホルモン軟膏「グローミン」(0.5~1gを1日1回使用)があります。
〔テストステロン以外の治療〕
〈バイアグラ等の投与〉
「オルガズム障害」に関しては、あくまでも医師の個別判断によりますが、バイアグラ・レビトラ・シアリス等のPDE5阻害薬の使用に有効性があるとされています。男性の1/3~1/2の投与で、特に糖尿病や高血圧等、動脈硬化が進行している患者様に対してオルガズムが改善する可能性があります。
〈「女性版バイアグラ」のフリバンセリン投与〉
アメリカ食品医薬品局では、女性の性的意識障害治療薬として「女性版バイアグラ」と言われるフリバンセリン(商品名「アディ」)が認可されました。フリバンセリンはドパミンとノルエピネフリンを増加させて、性欲を低下させるセロトニンを減らす効果があるとされています。国内で処方する場合は、医師の判断で輸入・処方となります。
【最後に】
性生活に不満が生じた場合に男性側、女性側の両面での配慮が必要です。男性側のED治療だけでなく、女性側のFSD治療が必要かもしれません。本コラムが女性パートナーとの幸福な性生活への契機となれば幸いです。
監修者
院長 髙嶋 政浩
平成元年 | 杏林大学医学部医学科卒業 |
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平成元年 | 杏林大学医学部附属病院 |
平成8年 | 西部総合病院皮膚科・形成外科部長 就任 |
平成12年 | 大手美容外科クリニック |
令和3年 | ユニティクリニック |